2025年に成立し、2026年4月を中心に施行される改正労働安全衛生法では、個人事業者や高年齢労働者を従来以上に保護するための規定などが追加されました。事業者は改正内容を確認し、安全衛生対策や体制づくりを進めましょう。この記事では、改正の主なポイントをわかりやすく解説します。安全な職場づくりの参考にしてください。
改正労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は、職場の安全や働く人の健康を守るために、社会や働き方の変化に応じて改正が行われています。まずは、労働安全衛生法の基本的な役割と、改正される背景についてわかりやすく解説します。
労働安全衛生法は労働者の安全と健康を守るための法律
労働安全衛生法(安衛法)は、働く人々の生命と健康を守り、誰もが安心して働ける職場づくりのために制定された法律です。 2025年5月14日に改正法が公布され、2026年1月1日から段階的に施行される予定となっています。
多くの改正事項は2026年4月1日から適用されますが、内容によっては開始時期が異なるものもあります。社内体制の整備を進める際は、注意しておきましょう。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)
今回の法改正の目的
労働安全衛生法は、社会や働き方の変化に対応し、全ての働く人の安全と健康をより確実に守ることを目指して改正が行われます。2025年の改正により、これまでは保護の対象ではなかったフリーランスや一人親方などの個人事業者も、一定の条件下で適用されることになりました。従来の労働安全衛生法は、雇用されて働く「労働者」に限定されていたため、大きな変更点といえます。
最近では、業種や職種を問わず人材の多様化が進み、労働災害のリスクも広がっています。そのため、誰もが安心して働ける環境の整備が急務となっています。こうした背景から、今回の改正では安全衛生の体制が大幅に見直されました。
【2026年4月施行】改正労働安全衛生法の5つのポイント
2025年に成立し、主に2026年4月から施行される改正労働安全衛生法の主な5つのポイントは、以下の通りです。
個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
2026年4月1日に施行される法改正により、労働者と個人事業者が混在する作業場での安全衛生管理の対象範囲が広がります。
これまで現場を統括する元方事業者には、自社の労働者および関係請負人の労働者に対し、災害防止対策を講じる義務がありました。しかし今後は、フリーランスや一人親方といった個人事業者も新たに保護の対象となります。
今回の改正により、現場で働く全ての作業者に対し、安全教育や連絡・調整、危険な機械の使用制限といった対策が必要です。これにより、現場全体の災害リスクをさらに減らすことが期待されています。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
職場のメンタルヘルス対策(ストレスチェック)の推進
職場におけるメンタルヘルス対策の推進として、ストレスチェック制度の義務対象が全ての事業所へ拡大される予定です。
これまで、ストレスチェックの実施は、労働者が50人未満の事業所においては努力義務にとどまっていました。しかし、法改正後は高ストレス者への面接指導も含め、全ての事業所での実施が義務化されます。この制度により、事業所の規模にかかわらず、メンタルヘルス不調の早期発見や予防につながると考えられます。施行日は、公布後3年以内に政令で定める日(見込みでは2028年春ごろまで)です。
なお、小規模な事業所に対しては、地域産業保健センターとの連携による体制整備や、プライバシー保護に配慮したマニュアルの作成など、さまざまな支援策が用意されます。制度の導入に際しては一定の準備期間があるため、現場での混乱を避けつつ、制度の定着を目指しましょう。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
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化学物質による健康障害防止対策等の推進
化学物質を扱う職場では、譲渡や提供の際にSDS(安全データシート)交付の義務違反があった場合に罰則が科されます。こちらは、公布後5年以内に政令で定める日から施行される予定です。
また、2026年4月1日からは、企業秘密に該当する化学物質の成分名については、有害性が低い場合に限り、あらかじめ代替名称を届け出ることで、その名称を記載できるようになります。ただし、人体への影響や応急処置に関する情報は、必ず記載しなければなりません。さらに同年10月からは、有害物質を取り扱う作業場において、資格を有する者による個人ばく露測定が義務化されます。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
機械等による労働災害防止の促進等
ボイラーやクレーンといった特定機械に関する規制が見直され、2026年4月からは一部の検査について、民間の登録機関による実施が可能になります。これにより、審査や検査の効率が向上する一方、不正防止策の強化も図られます。
また、フォークリフトの技能講習については、2026年1月から、不正な修了証の発行や、誤解を招くような紛らわしい書類の交付が禁止されます。違反があった場合は、修了証の回収命令や、資格取得ができない期間の延長などの措置が講じられる予定です。これらの改正は、現場での安全の確保と制度の信頼性向上を目的としています。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
高年齢労働者の労働災害防止の推進
高年齢の労働者による労働災害が増加していることを受け、2026年4月1日からは、事業者に対して災害防止のための対策を講じることが努力義務となります。具体的な指針については、国が策定する予定です。
事業者側としては、作業内容の見直しや健康管理のさらなる強化が求められます。特に、体力や健康状態に配慮した職場環境づくりがこれまで以上に重要となり、熱中症への対策も欠かせないポイントです。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
職場の熱中症対策については、こちらの記事をご参照ください。

熱中症対策の義務化が2025年6月から!罰則など法改正の内容を解説
2025年6月から、企業の労働環境における熱中症対策が法律で義務化されることになりました。
本記事では、義務づけられる対策の内容や違反時の罰則、企業が実施すべき具体的な取り組みについて紹介します。また、熱中症リスクを軽減し、従業員の健康を守るために企業が押さえておくべきポイントを分かりやすく解説します。
改正労働安全衛生法に注意すべき事業者は?
改正労働安全衛生法の施行により、事業者には従来以上に従業員の安全と健康を確実に守ることが求められています。この法律について特に注意しなければならないのはどのような事業者なのか、具体的に解説します。
個人事業者が働く作業場を有する事業者
建設業や製造業などで現場を持つ事業者には、個人事業者に対しても労働者と同様の安全衛生管理が求められるようになりました。法改正によって、作業手順を明確に伝えることや、保護具を貸し出すこと、安全衛生教育を受けさせることが義務となっています。
そのため、機械による事故防止策や健康を守るための体制の整備が急務です。たとえ請負契約を結んでいる個人事業者であっても、現場で働く限り、「労働者」と同様の災害防止措置が必要です。事業者には、これまで以上に強い責任と配慮が求められます。
50歳以上の労働者を配置している事業者
高年齢労働者を雇用または再雇用する事業者にとって、労働災害の約4割が高年齢労働者に集中している現状は、決して無視できるものではありません。現在は国の指針の発表を待っている段階ですが、加齢に伴い変化する身体機能に対応した「エイジフレンドリー」な職場づくりを早急に進めることが求められています。
「エイジフレンドリー」とは?
「エイジフレンドリー」とは、WHO(世界保健機関)などが提唱している、高年齢労働者が安心して働ける環境を整えるという考え方です。したがって、安全面への配慮だけでなく、作業負担や設備設計の見直しなど、年齢に応じた柔軟な対応が事業者に求められます。
参照元:厚生労働省|エイジフリーガイドライン 
参照元:厚生労働省|高年齢労働者の安全と健康
まとめ
2026年4月に施行される改正労働安全衛生法では、個人事業者や高年齢労働者への保護が拡充されます。また、化学物質や機械の管理体制が強化されるほか、メンタルヘルス対策も全事業所で義務化されます。事業者が負う安全配慮義務の責任がより重くなるため、早期の対応と継続的な見直しを実施しましょう。
          


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