ビジネスシーンにおいて、メールは日々の業務に欠かせないコミュニケーションツールですが、それに伴うリスクも無視できません。中でもメール誤送信は、たとえ小さなミスでも、企業の信頼失墜や情報漏えいといった重大なインシデントに繋がりかねません。本記事では、実際に発生したメール誤送信の事故事例を3つご紹介し、その主な原因と効果的な対策について詳しく解説します。対策を知ることはもちろん重要ですが、「自分には関係ない」という油断が一番危険です。過去の事例から学び、自身の業務におけるセキュリティ意識を高め、二度とエラーを起こさないためのセキュリティ対策を講じましょう。宛先、件名、添付ファイルなど、日々の確認を徹底し、メール誤送信のリスクを最小限に抑えることが、お詫びだけでは済まされない事態を防ぐ鍵となります。
メール誤送信とは
メール誤送信とは、意図しない相手にメールを送ってしまう行為です。これは個人だけでなく、企業においても発生しうるミスであり、特に機密情報や個人情報を含むビジネスメールでの誤送信は、情報漏えいという深刻なリスクを伴います。
メール誤送信のリスク
メール誤送信が引き起こすリスクは多岐にわたりますが、最も重大なものの一つが情報漏えいです。ここでは、情報漏えいによるリスクと、それが企業に与える影響について詳しく見ていきましょう。
情報漏えいによる重大なリスクとインシデント
メール誤送信によって、顧客の個人情報や企業の機密情報が意図しない第三者に渡ってしまうことは、常に潜む重大なセキュリティリスクです。このような情報漏洩インシデントが発生した場合、その影響は甚大です。例えば、顧客の個人情報が漏洩すれば、顧客からの信頼を失い、顧客離れを引き起こし、企業のブランド価値は著しく低下します。また、営業データや技術情報、ノウハウといった機密情報が競合他社に流出すれば、競争上の優位性を失い、ビジネスの根幹を揺るがす事態に発展する可能性もあります。さらに悪いケースでは、漏洩した情報の内容によっては、損害賠償請求や社会的な非難を浴びることもあり、企業の存続自体が危ぶまれるリスクもゼロではありません。これらは決して他人事ではなく、実際に多くの企業で起こりうる現実的なセキュリティインシデントです。未然に防ぐためのセキュリティ対策が、組織にとって不可欠と言えるでしょう。
メール誤送信の原因5選
メール誤送信の多くは、従業員による不注意や確認不足といったヒューマンエラーが主な原因です。しかし、それに加えて、日頃の業務環境や使用しているツールの特性も影響しています。ここでは、メール誤送信を引き起こしやすい代表的な原因を5つご紹介します。
①送信先・宛先の選択ミス
メールの宛先を間違えてしまうことは、メール誤送信の中でも非常に多く見られるミスです。例えば、メールソフトの自動補完機能(オートコンプリート)に表示された候補をよく確認せずに選択してしまったり、似たようなメールアドレス(例:山田一郎さんのYamada_I@xxx.comと山田二郎さんのYamada_N@yyy.com)や、社内と社外で同姓同名の相手に送ってしまうケースが挙げられます。これらの、いかにも起こりがちなミスが、メールの内容によっては機密情報や個人情報の漏えいに繋がる可能性があるため、日頃からの注意が必要です。
②添付ファイルを間違える
メール誤送信のもう一つの典型的なパターンは、添付ファイルを間違えて送付してしまうことです。これは、本来送るべきファイルとは全く違うファイルを添付してしまったり、ファイルのバージョン管理が適切に行われておらず、古い情報や未完成のファイルを送ってしまったり、あるいはファイルを添付したつもりが見落としてしまい添付し忘れた、といったケースを含みます。添付するファイルの内容によっては、社外秘の機密情報が漏洩するリスクがあり、非常に危険です。このようなミスの原因としては、メール送信前の確認不足が挙げられますが、締切り間際で時間に追われていたり、複数の業務を同時並行で行っていたりする状況で焦ってしまい、ファイルの選択を間違えることも考えられます。
③CCとBccの設定ミス
メールを複数の宛先に送信する際に使用するTo、Cc、Bccの設定ミスも、情報漏洩のリスクを高める大きな要因となります。Toは主な宛先、Ccは情報共有したい相手、そしてBccは他の受信者にアドレスを知られずに情報共有したい相手に指定しますが、特にBccに入れるべき複数の宛先を誤ってCcに入れてしまうミスは頻繁に発生します。これにより、本来秘匿されるべき個人のメールアドレスが、他の受信者全員に公開されてしまい、個人情報の漏洩に繋がる可能性があります。メールマガジンや顧客への一斉告知などでBccを多用する場合、特に注意が必要です。このようなリスクを避けるためには、後述するメール配信サービスの利用を検討するのも有効な対策の一つです。一度誤ってCcで送信してしまうと、受信者からの予期せぬ「全員に返信」によって、さらに情報が拡散するリスクも伴います。
④メール本文・件名のミス
メールの宛先や添付ファイルだけでなく、メール本文や件名に誤りがある場合も、誤送信と同様に大きなトラブルを引き起こす可能性があります。例えば、メールの内容に誤った情報(金額、納期、会社名など)が含まれていたり、過去のメールの文面を流用した際に修正漏れがあったり、件名と本文の内容が一致していないまま送信してしまったりするケースです。送信先が正しくても、このような内容の誤りや不適切な表現は、相手に誤解を与えたり、企業の信頼を損ねたり、無駄なやり取りや再送の手間を発生させたりと、多くの問題を引き起こす原因となります。
⑤テレワークによる気の緩み
近年増加しているテレワークは、柔軟な働き方を可能にする一方で、セキュリティリスクを高める側面も持ち合わせています。オフィスとは異なり、周囲の目がない環境では緊張感を保ち続けることが難しく、気の緩みから普段はしないようなミスを招くことがあります。 例えば、オフィスであれば重要なメールは複数人でチェックする体制が整っていたものが、テレワーク環境では個人での対応となり、確認不足によるミスが増えるといったケースが考えられます。また、テレワークの普及によりメールでのコミュニケーション量が増加した結果、次々と届くメールへの対応に追われる中で、焦りから誤った操作をしてしまうことも少なくありません。このような状況下では、意識的なダブルチェックや、ミスの発生を防ぐための仕組みづくりがより一層重要になります。
2025年のメール誤送信の事故事例3選
ここでは、近年発生したメール誤送信の事故事例を3つご紹介します。これらの事例から、どのような状況で誤送信が発生し、どのような影響が出ているのかを知ることで、より一層の注意喚起に繋げましょう。
メール誤送信事故事例①
とある企業Aでは本来は社内に送信すべきメールを社外のメールアドレスに対して誤ってメールを送ってしまい、個人情報(氏名、メールアドレス、携帯電話番号)が流出する事故が発生しました。この事態は、メールを受け取った別の契約者からの問い合わせによって発覚しました。人為的なミスが原因で、顧客の重要な個人情報が意図しない相手に渡ってしまった典型的な事例と言えます。連絡業務における確認不足が、情報漏洩という重大な結果を招いてしまいました。
メール誤送信事故事例②
とある企業の業務委託事業者Bでは、イベント募集に関するメールを一斉メールにて送信した際、宛先をBccではなくCcに設定してしまったために、参加者全員のメールアドレスが相互に閲覧可能な状態となり、個人情報が流出しました。この事例は、メールの一斉送信時にCcとBccの使い分けを誤ったことによる典型的な個人情報漏洩です。受信者は他の受信者のメールアドレスを知ることを想定していないため、このようなミスは信頼失墜に直結します。多数の個人情報を扱う際には、特に宛先の設定に細心の注意を払う必要があります。この事例では担当者が誤送信に気が付いた後に、関係者全員に対して謝罪と、誤送信メールの削除を依頼するメールを送信し、委託をしている企業からメール送信時のダブルチェック徹底など、人為的ミスを防ぐための再発防止策の指導が行われたとのことです。
メール誤送信事故事例③
とある官公庁では、業務の実施にあたり、事業者の担当者名及びメールアドレスが漏えいする事故が発生しました。このミスの原因としては、職員が事業者にメールを発出する際、職員による複数チェックがないままに他の事業者のメールアドレスが表示される形式で送信してしまったという「大丈夫だろう」と思ってしまう慢心が引き起こす不安全行動の温床が挙げられます。これらの事例はいずれも、私たちの職場でも起こりうる身近なインシデントであり、常に高いセキュリティ意識を持つことの重要性を示しています。
メール誤送信を防ぐための対策と考え方
メール誤送信は、ヒューマンエラーや確認不足、操作ミスといった人的要因によって発生することが多く、情報漏えいや信用失墜といった重大なリスクに繋がり得ます。これらのミスを完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、適切な対策と仕組みを講じることで、発生確率を大幅に減らすことが可能です。ここでは、企業や個人が実践できる有効な対策と、インシデントに強い組織を構築するための考え方についてご紹介します。
ヒューマンエラーを防ぐ基本対策
メール誤送信の多くはヒューマンエラー、つまり人為的なミスによって引き起こされます。対策の第一歩として、個々の従業員が意識的に誤りを防ぐための基本的な行動を取り入れることが重要です。ここでは、日々の業務で実践できるヒューマンエラーを防ぐための基本対策をいくつかご紹介します。
対策①メール送信時のチェックリストを活用する
メールを送信する前に確認すべき項目をリスト化し、そのリストに基づいて確認を行うことは、ヒューマンエラーによる誤送信を防ぐ上で非常に有効な対策です。チェックリストを作成し、メール送信のルールとして会社全体で周知徹底することで、確認作業を習慣化することができます。例えば、宛先に間違いがないか、特にメールアドレスのドメインを含めて正確に確認する項目や、件名がメールの内容を適切に表しているか、本文に誤字脱字や事実と異なる情報が含まれていないかを見直す項目などが考えられます。また、添付ファイルがある場合は、ファイルを開いて内容を確認すること、アドレス帳に登録する際には氏名だけでなく会社名も併記して誤選択を防ぐといった具体的な対策を盛り込むと、より効果的です。このひと手間を惜しまないことが、重大なミスを防ぐことに繋がります。
対策② 複数人チェック体制を整える
機密情報や個人情報を含む重要なメールを送信する際には、一人の担当者だけでなく、上司や同僚といった複数の目で内容を確認する体制を整えることが、誤送信のリスクを低減するために非常に有効な対策です。複数人でチェックを行うことで、一人では気づけなかった誤りや不備を発見できる可能性が高まります。また、チェック担当者を固定せずにローテーション制にすることで、特定の個人に負担が偏ることを防ぎ、様々な視点からのチェックが可能となり、より網羅的な確認が期待できます。
対策③システム化・仕組化によるミス削減
人間の注意力には限界があり、どれだけ注意していてもヒューマンエラーを完全に排除することは困難です。そこで、システムやツールを活用して、誤送信が発生しにくい仕組みを構築することが効果的なセキュリティ対策となります。近年では、メールソフトやセキュリティサービスに誤送信防止機能が搭載されているものも多く存在します。
メールセキュリティツールActive! gate SSの活用
メール誤送信のリスクを低減するためには、人間による確認だけでなく、システムによる機械的なチェックを導入することが非常に効果的な対策となります。近年では、誤送信対策機能を備えたメールソフトや、追加機能として利用できるアドオン、さらにはクラウド型のセキュリティサービスなど、様々なツールが登場しています。これらのツールには、メール送信後に一定時間保留することで自己確認の時間を確保する「メール送信遅延機能」、添付ファイルを自動的にダウンロードリンク化し、誤ったファイル添付のリスクを減らす機能、宛先やドメインの入力を自動的にチェックし、間違いを指摘する機能などがあります。また、重要なメールの送信には上司の承認を必須とする「メールのダブルチェック・承認機能」や、メールへの対応漏れや二重対応を防ぐための管理機能なども存在します。これらのシステムを活用することで、ヒューマンエラーによるメール誤送信のリスクを大幅に軽減し、組織全体のセキュリティレベルを向上させることができます。ツールに任せられる部分はシステムに任せることで、人間の負担を減らし、より重要な業務に集中できるというメリットもあります。

Active! gate SS
メールやり取りのヒヤリハット誤送信を徹底対策!
送信メールの一時保留や添付ファイルの暗号化
(zip暗号化)といった機能を利用し、メールでの情報漏えいや
誤送信を防止することが可能なメールセキュリティサービス
クラウドストレージDropboxの活用
メールにファイルを添付する際に発生しやすいミスの一つに、誤ったファイルを添付してしまうという問題があります。このリスクを回避するための有効な対策として、「クラウドストレージ」の活用が挙げられます。ファイルを直接メールに添付する代わりに、クラウドストレージにファイルをアップロードし、そのファイルの共有リンクのみをメール本文に記載して相手に送信する方法です。この方法の大きなメリットは、万が一、誤って違うファイルを共有してしまった場合でも、クラウドストレージ上でファイルを削除したり、共有設定を変更したり、パスワードをかけたりすることで、情報の拡散を防ぎ、被害を最小限に抑えることが可能になる点です。直接ファイルを添付してしまうと、送信後に誤りに気づいても回収が困難な場合が多いですが、クラウドストレージを利用することで、より柔軟な対応が可能となり、誤送信による被害のリスクを大幅に低減できます。
人と組織で築く、インシデントに強い業務体制
強固なセキュリティ体制を構築するためには、単にツールやシステムを導入するだけでは不十分です。最も重要な要素は、それらを適切に運用し、リスクを判断できる「人」の存在であり、組織全体のセキュリティ意識です。全従業員がセキュリティに関する理解を深め、日々の業務においてセキュリティを意識した行動を実践することで、インシデントの発生リスクを大幅に低減することが可能です。ここでは、セキュリティリテラシーの向上がもたらす効果と、それを実現するための教育やトレーニングの重要性について解説します。
セキュリティリテラシー向上がもたらす効果
従業員一人ひとりのセキュリティリテラシーを高めることは、メール誤送信だけでなく、様々なセキュリティインシデントを防ぐための最も根本的な対策と言えます。セキュリティに関する知識と意識が向上することで、日々の業務における潜在的なリスクを認識し、適切な判断を下せるようになります。これにより、組織全体としてセキュリティ意識の高い文化が醸成され、従業員が自然とセキュリティに配慮した行動をとるようになります。定期的なセキュリティ研修プログラムを構築し、最新の脅威情報や過去の失敗事例を共有することで、従業員は実際の業務に即した形でリスクへの対応能力を高めることができます。セキュリティリテラシーの向上は、単にリスクを回避するだけでなく、問題発生時の迅速かつ適切な対応にも繋がります。
✔ セキュリティインシデントを防ぐためのリテラシー強化
セキュリティインシデントを未然に防ぐためには、従業員一人ひとりのセキュリティに対する意識と知識を高めることが不可欠です。全社員がセキュリティの重要性を認識し、日々の業務においてリスクを意識した行動をとる文化を組織全体で育むことが重要です。そのためには、定期的なセキュリティ研修プログラムを構築し、実施することが効果的です。研修では、最新のサイバー攻撃の手法や、過去に発生した情報漏えい事例などを具体的に学ぶことで、従業員はセキュリティリスクを自分自身の問題として捉え、実務での判断力や、インシデント発生時の対応力を強化できます。
✔ 教育とトレーニングによる意識醸成
従業員のセキュリティ意識を高めるためには、単なる座学に留まらない、実践的な教育とトレーニングが効果的です。例えば、実際のメール誤送信を想定したシミュレーションや、フィッシングメールを見抜くための演習などを取り入れることで、従業員はセキュリティに関する知識をより深く理解し、実際の状況で応用できるようになります。また、サイバー攻撃の手法は日々進化しています。そのため、最新のセキュリティトレンドや、新たに確認された脅威に関する情報を継続的に共有し、従業員の知識を常に最新の状態にアップデートしていくことが重要です。
✔ チームで取り組む業務改善のステップ
メール誤送信や情報漏えいといったセキュリティインシデントに強い組織を築くためには、従業員個人の意識向上に加え、チームとして業務プロセスを見直し、改善していく視点が不可欠です。まず、チーム内でブレインストーミングなどを通じて、現在の業務フローに潜むセキュリティ上の課題を洗い出します。次に、洗い出された課題に対して、具体的な改善策を立案し、実行に移します。実行した改善策については、その効果を定期的に評価し、必要に応じてプランを調整することで、継続的な業務改善を実現します。相互確認のプロセスの導入や、明確な業務手順の整備は、ヒューマンエラーの発生を抑制し、業務の信頼性を向上させることに繋がります。チーム全体でセキュリティ課題に向き合い、協力して改善に取り組むことが、情報漏えいなどのリスクに強い、resilient(レジリエント:回復力の高い)な組織を作るための重要なステップです。
まとめ
メール誤送信による情報漏えい事故は、企業にとって非常に重大な経営リスクです。ほんの些細な確認ミスや操作ミスが引き金となり、顧客や取引先からの信頼の失墜、機密情報の漏洩によって事業の継続が困難になるほどの深刻な影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクは、従業員個人の不注意として片付けるのではなく、組織全体で取り組むべきマネジメント上の課題として捉える必要があります。メール誤送信を防ぐためには、明確な社内ルールの整備や、送信前の複数人による確認プロセスの導入、そして誤送信防止機能を備えたツールの活用など、経営層が主体となって積極的に対策を講じることが求められます。日々の業務における小さな油断が、取り返しのつかない事態に繋がる可能性があることを常に意識し、組織全体でセキュリティ意識を高めていくことが重要です。