2023年10月から始まったインボイス制度ですが、まだ対応に苦慮している事業者も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、インボイス制度に対応する際の注意点について解説します。仕入税額控除の経過措置や2割特例といった、インボイス制度の負担が少なくなる制度についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
小規模事業者向け インボイス制度導入後の注意点
小規模事業者がインボイス導入後に注意すべき点としては、主に以下が挙げられます。
1. 取引先がインボイス対応しているか確認が必要になる
インボイス制度開始後は、取引先が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)か否かによって、経理処理の方法が変わります。したがって、まずは取引先がインボイス登録しているかどうか を確認しなければいけません。これは今後、新規の取引先が生じた場合も同様です。また、取引先が今後インボイス登録する(または登録を取り消す)場合は、自社にも知らせてもらえるように頼んでおきましょう。
2. 受け取った請求書等の確認が必要になる
仕入税額控除を受けるには、適格請求書に必要事項が記載されていなければなりません。インボイス登録事業者から請求書を受け取ったら、「適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号) 」と「税率ごとに区分された消費税額 」がちゃんと記載されているか確認しましょう。
インボイス番号については、その番号が正しいか、念のために国税庁のデータベース と照合しておくと安心です。インボイスに対応した会計システムを導入すれば、国税庁のデータベースと自動で照合してくれるのでおすすめです。
取引先に小規模事業者や個人事業主が多い場合は、インボイスに対応していない請求書を受け取る機会も多いと考えられます。そうした請求書では仕入税額控除を受けられないので、適格請求書と一緒にならないように整理しましょう。
3. 紙の請求書が多いと手間がかかる
取引先に小規模事業者や個人事業主が多い場合は、紙ベースで請求書を受け取ることが多いと予想されます。というのも、小規模事業者は電子化の必要性を特に感じていない場合が多く、資金やノウハウの不足も相まって、インボイス対応のシステムを導入できていないことが予想されるからです。紙の請求書が多くなると、保存や入力などの手間が大きくなるので、それらのワークフローについても考えておくことが重要です。
参照元:中小企業庁|小規模事業者におけるデジタル化とデータ利活用
4. 消費税を納付する準備も忘れずに!
免税事業者から課税事業者になった事業者は 今後、消費税を納税しなければいけない ことにご注意ください。納税額を計画的に確保しておかないと、経営状態によっては資金繰りが難しくなることも考えられます。
中堅・大規模事業者向け インボイス制度導入後の注意点
中堅・大規模事業者は、特に以下のような点に注意しましょう。
1. 経理業務の負担増大に備える
中堅・大規模事業者は経営規模に応じて、取引先の数も処理すべき請求書の量も自然と多くなります。インボイス制度では請求書を受け取る側も相当量の労力を要するので、経理業務の負担増に対応できる体制を整えることが重要です。
なかには、当面のあいだ紙ベースでインボイスに対応することを考えている事業者もいるかもしれませんが、それはあまり推奨できません。紙ベースでの請求書処理は煩雑で、管理や処理の負担が非常に大きいため、ヒューマンエラーや経理業務の遅延を招く恐れがあります。できるだけ早期にインボイス対応したシステムやサービスを導入するのがおすすめです。
2. 既存のシステムが多岐にわたる取引方法に対応できるか確認する
中堅・大規模事業者の場合、取引方法が多岐にわたることが一般的です。受発注、請求、決済といった業務フローが複雑であり、一つのシステムでこれを完結させるのは難しいことも考えられます。
したがって、インボイス制度への対応にあたっては、今一度システムを見直し、それでちゃんと対応できるか確認することが大切です。電子インボイスなど経理処理の電子化が適切にできるようになれば、業務効率の大幅な向上や事務コストの削減が可能になります。できれば取引先に対しても、適格請求書の電子化を依頼するのがおすすめです。これにより取引先との連携もスムーズになり、業務の進行をより効率的に行うことが可能となります。
インボイス制度導入後の留意点:仕入税額控除の経過措置
インボイス制度導入を契機に、免税事業者との取引継続について再考している方も多いかもしれません。しかし、その判断をする前に把握しておきたいのが、インボイス制度導入後の6年間、インボイス登録していない事業者からの仕入れに対しても一定の割合で仕入税額控除を受けられることです。
まず、2023年10月1日から以後3年間については、免税事業者からの仕入れに対しても8割の仕入税額控除を受けられます。その後の3年間は、仕入税額の5割のみ控除可能です。したがって、免税事業者との取引を続ける場合も、少なくとも最初の3年間については仕入税額の負担をかなり小さくすることが可能です。
参照元:国税庁|免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
また、インボイス制度開始を契機に課税事業者(インボイス発行事業者)に転換した事業者、もしくは基準期間の課税売上高が1,000万円以下の課税事業者についても、2023年10月から3年間、「2割特例 」を利用できます。これは、売り上げにかかる消費税額の8割を差し引いて納税額を計算できる負担軽減措置です。
参照元:国税庁|2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
この負担軽減措置を利用することで、消費税の負担を大幅に軽減できます。残った2割の負担分については、商品・サービスの料金に転嫁したり、雑損失へ振り替えたりして処理することを考えましょう。
売掛金の相殺処理はどう変わった?
売掛金の相殺処理に関しても、インボイス制度の導入に伴う変更がある点に注意しなくてはいけません。BtoBの取引では、取引先との合意のもと、売掛金から買掛金を差し引いて(相殺して)経理処理することがあります。この際に発行する請求書についても、インボイス制度のルールにしたがって、インボイス番号や消費税額を記載するように変更が必要です。
インボイス制度導入後の経費精算で気を付けること
インボイス制度の導入に伴って、経費精算の方法はどのように変わったのでしょうか。以下では、その変更点および注意点について簡単に解説します。
請求書の記載項目が増える
インボイス制度導入に伴って、請求書の記載項目を追加しなければいけません。具体的には、「インボイス登録番号 」「適用税率 」「税率ごとの消費税額 」の記載が必要です。
3万円未満の特例がなくなる
これまで3万円未満の少額決済については、帳簿に記載してあれば領収書の保存は不要という特例措置が取られていました。しかし、この特例はインボイス制度開始後に廃止され、領収書の保存が必須となります。
なお、インボイス番号の記載など、一定の条件を満たすレシートや領収書については「適格簡易請求書(簡易インボイス) 」として扱われます。簡易インボイスでも、通常の適格請求書と同じように仕入税額控除を受けることが可能です。
立替金精算書の作成・保存が必要になる
取引先を経由して仕入れをしている場合、その取引先に立替金精算書を作成・提出してもらい、自社で保存する必要があります。これは、課税仕入れをしているのが取引先ではなく、あくまでも自社であることを明確にするためです。
また、従業員が経費を立て替えたときに自分の氏名宛ての領収書を受け取ってしまった場合も、その従業員に立替金精算書を作成・提出してもらう必要があるのでご注意ください。
消費税の積上げ計算が認められる
従来の割戻し計算に加え、新たに積上げ計算が認められました。「年間総売り上げ×消費税率」で納税額を算出する割戻し計算に対して、積上げ計算は、取引ごとに生じた消費税額を一つひとつ加算していく方法です。特にBtoCがメインの企業では、積上げ計算方式を採用した方が利益は増加すると見込まれます。他方で、手計算で積上げ計算に対応しようとすると大変な手間になるので、注意が必要です。
経理業務の負担が増大する
上記のように、インボイス制度は非常に複雑であり、それに対応する経理担当者には大きな負担がかかります。「取引先がインボイスに登録しているか」「請求書に必要事項が正確に漏れなく記載されているか」といった基本的な確認作業だけでも、取引先や処理すべき請求書が多いと膨大になります。2024年に本格始動する電子帳簿保存法への対応も急務です。そのため、経理業務効率化の対策を講じることは、多くの事業者にとって喫緊の課題になっています。
経理業務を効率化するには
インボイス対応を含めた経理業務を効率化するには、インボイス制度に対応した経理システムの導入が非常に効果的 です。先にも触れた通り、2024年には改正電子帳簿保存法も施行されるので、これにも対応したシステムであると一石二鳥になります。
インボイス制度に対応したシステムならば、登録番号の照合や仕入税額控除の計算も自動で行ってくれるので、手計算に比べてミスの不安も減り、経理処理に必要な時間や労力も大きく削減可能です。紙のやり取りをなくすことで、情報の管理も格段に楽になります。
まとめ:インボイス制度の留意点を把握し、業務の効率化を図りましょう
インボイス制度に伴う業務は非常に複雑で、経理担当者の負担が大きく増加します。そこでおすすめなのが、会計ソフト「 freee会計 」の導入です。freee会計は、インボイス登録番号を国税庁のデータベースと自動照合し、適格請求書発行事業者を自動で判定したり、インボイスを適切に保存管理したりできます。インボイス制度の運用でミスを減らし効率化するために、ぜひご活用ください。