職場の「フキハラ」とは?話題の不機嫌ハラスメントについて裁判事例や対応策を解説!

職場で特定の人や周囲に対して不機嫌な態度を取り、精神的な苦痛を与えるフキハラが、最近ニュースなどでも取り上げられ注目されています。
フキハラとは「不機嫌ハラスメント」の略称であり、放置すると職場の生産性低下や離職率の増加につながる深刻な問題です。

この記事では、フキハラの定義や具体例、原因から、個人でできる対処法、企業が取り組むべき対策、そして実際の裁判事例までを網羅的に解説します。

目次

不機嫌ハラスメント(フキハラ)の基本的な意味

不機嫌ハラスメントとは、自身の不満や怒りといった不機嫌な感情を、態度や言動で周囲にまき散らし、他者に不快感や精神的な苦痛を与える行為を指します。
この言葉の明確な法律上の定義はありませんが、モラルハラスメントの一種とされています。

相手に聞こえるようにため息をつく物音を大きく立てる、無視するといった行為が典型例で、加害者にハラスメントの意図があるかどうかは問われません。
受けた側が威圧感や精神的苦痛を感じれば、不機嫌ハラスメントに該当する可能性があります。

これってフキハラ?職場で見られる具体例

自分の職場での経験がフキハラに当たるかどうか、具体的な例を参考にチェックしてみましょう。
不機嫌な態度は、言葉による直接的な攻撃とは異なり、ハラスメントであると認識されにくい側面があります。

しかし、意図的に、あるいは無意識的に行われる威圧的な態度は、周囲の従業員の精神を疲弊させ、職場の雰囲気を著しく悪化させます。
以下に挙げる具体例は、職場で起こりうるフキハラの一例です。


職場で起こりがちなフキハラの行動

職場におけるフキハラは、上司の部下に対するものだけでなく、同僚間や部下から上司へ、さらには取引先に対して行われることもあります。
会社でよく見られる具体的な行動としては、「大きな音を立ててドアを閉める」「聞こえるようにわざと大きいため息をつく」「パソコンのエンターキーを強く叩く」「挨拶や呼びかけを無視する」「質問しても不機嫌な表情で答えない、あるいは無言を貫く」「貧乏ゆすりが激しい」「舌打ちをする」などが挙げられます。

これらの行動は、直接的な言葉での暴力ではないものの、継続的に行われることで周囲に多大な精神的ストレスを与え、職場環境を悪化させる要因となります。

なぜ人はフキハラをしてしまうのか?考えられる5つの原因

フキハラの加害者は、なぜ周囲を不快にさせるような行動をしてしまうのでしょうか。その背景には、単なる性格の問題だけでなく、心理的な要因やコミュニケーションの問題など、複数の原因が考えられます。

加害者の特徴や行動の裏にある心理を理解することは、フキハラ問題への適切な対処を考える上で役立ちます。ここでは、人がフキハラをしてしまう主な原因として考えられる5つの特徴について解説します。


ストレスや体調不良による感情の乱れ

過重な業務、人間関係の悩み、プライベートな問題など、強いストレスにさらされている状態は、感情のコントロールを難しくします。
心に余裕がなくなると、些細なことでイライラし、その感情が不機嫌な態度として無意識のうちに表に出てしまうことがあります。

また、睡眠不足や疲労といった体調不良も、精神的な不安定さを引き起こし、フキハラの原因となりえます。
この場合、加害者自身もつらい状況に置かれており、自分の感情を適切に処理できずに周囲に当たり散らしてしまっている状態と言えます。


自分の思い通りに相手を動かしたい支配欲

不機嫌な態度を意図的に示すことで、相手に恐怖心や威圧感を与え、自分の思い通りにコントロールしようとする心理が働く場合があります。
これは、自分の優位性をアピールするための手段であり、モラハラの一形態です。
特に、特定の人をターゲットにして、その人が萎縮する様子を見て満足感を得るという特徴が見られます。

このような加害者は、自分が不機嫌でいることを周囲に察させ、気を遣わせることで、職場での主導権を握ろうとします。自分の要求を通すために、言葉ではなく威圧的な態度で相手を支配しようとするのです。


コミュニケーション能力の不足

自分の感情や考えを言葉で的確に伝えるのが苦手なために、不満や怒りを態度で示してしまうケースもあります。
例えば、業務上の改善点を指摘したいのに、どう伝えれば良いか分からず、結果的に無言になったり、ぶっきらぼうな態度を取ったりしてしまいます。

本人に相手を威圧する意図はなくても、その態度は周囲から見れば無視された、あるいは怒っていると受け取られ、フキハラと見なされます。円滑な意思疎通ができないことが、結果的にハラスメント行為につながっているのです。


ハラスメントであるという自覚の欠如

自身の不機嫌な態度が、周囲に精神的な苦痛を与えているハラスメント行為だという自覚が全くないケースも少なくありません。このような加害者は、ため息や舌打ちが単なる癖であったり、自分の機嫌が悪いことを態度に出すのは当然のことだと考えていたりします。

そのため、無意識、無自覚のうちにフキハラを行っており、他者から指摘されてもなぜそれが問題なのか理解できないことがあります。
社会的なモラルやハラスメントに関する知識が不足している、あるいは「自分は悪くない」という考えが根底にある場合に見られます。

フキハラが職場環境に与える深刻な悪影響

フキハラは、被害者個人の問題に留まらず、職場全体に様々な悪影響を及ぼします。
一人の不機嫌な態度が、チームの生産性を下げ、離職・休職率を高め、最終的には企業の業績にも関わるほどの深刻な事態を招く可能性があります。

放置されたフキハラが職場環境にどのような影響を与えるのかを具体的に見ていきましょう。


チーム全体の雰囲気が悪くなりコミュニケーションが滞る

フキハラを行う従業員がいると、周囲は常にその人の顔色をうかがい、機嫌を損ねないように気を遣わなければならず、職場全体に緊張感が漂います。このような萎縮した雰囲気の中では、自由な意見交換や活発な議論は生まれにくくなります。業務上の必要な報告、連絡、相談ですら躊躇してしまい、結果として情報共有が滞り、業務に支障をきたすことになります。

継続的なストレスは、他の従業員のメンタルヘルスを悪化させ、うつなどの精神疾患につながる危険性も高めます


従業員のモチベーションが下がり生産性が低下する

理不尽な不機嫌に日常的にさらされる環境では、従業員は安心して業務に集中することができません。仕事に対する意欲やモチベーションは著しく低下し、創造的なアイデアを出すことや、前向きに業務に取り組むことが困難になります。

集中力の低下はケアレスミスを誘発し、業務の質やスピードにも影響を及ぼすでしょう。
結果として、チームや組織全体の生産性が低下する事態を招きます。
また、精神的な負担からうつ病などを発症し、パフォーマンスが著しく落ちるケースもあります。


優秀な人材が離れていく離職率の増加

従業員にとって、職場の人間関係や雰囲気は働き続ける上で非常に重要な要素です。フキハラが横行するような劣悪な職場環境に、従業員が長期間耐えることは困難です。

特に、より良い労働環境を求めて転職できるスキルや経験を持つ優秀な人材ほど、早期に見切りをつけて会社を去っていく傾向があります
また、精神的な不調から休職や退職に追い込まれる従業員も出てくるでしょう。フキハラの放置は、企業にとってかけがえのない人材の流出に直結する経営上のリスクとなります。

不機嫌ハラスメントに関する裁判事例

不機嫌ハラスメントは、その態様や程度によっては違法なパワーハラスメントと認定され、加害者や会社が損害賠償責任を負う可能性があります
法律上「不機嫌ハラスメント」という明確な定義はありませんが、裁判では、威圧的な言動が労働者の就業環境を害したかどうかが争点となります。

実際に、部下に対して長期間にわたり無視や威圧的な態度を続けた上司の行為が不法行為にあたるとして、慰謝料の支払いが命じられた事例も存在します。
裁判でフキハラを主張する際は、いつ、どこで、どのような行為があったかを記録したメモや録音データなどの客観的な証拠が重要になります。

フキハラを受けたときの個人でできる対処法

職場でフキハラに直面したとき、どのように対応すれば良いのでしょうか。加害者の不機嫌な態度に振り回されず、自分自身の心とキャリアを守るためには、冷静かつ適切な対処法を知っておくことが不可欠です。

感情的に反発したり、一人で抱え込んだりするのではなく、いくつかのポイントを押さえた対応を心がけることで、状況の悪化を防ぎ、解決への道筋を見つけることができます。


相手の不機嫌な感情に引きずられない

フキハラへの対処でまず重要なのは、相手の不機嫌を自分のせいだと考えないことです。
相手が不機嫌なのは、その人自身の課題であり、必ずしも自分の言動が原因とは限りません。加害者の感情に同調して過度に気を遣ったり、落ち込んだりすると、心理的な負担が増大します。

「あの人は今、何かあって機嫌が悪いだけだ」と客観的に捉え、自分の感情と相手の感情を切り離して考えるように努めます。冷静に事実と感情を分けることで、精神的なダメージを軽減できます。


物理的・心理的に適切な距離を保つ

加害者からは、可能な範囲で距離を置くことが有効な自己防衛策となります。
業務に支障が出ない範囲で席を移動したり、休憩時間をずらしたりするなど、物理的に接触する機会を減らす工夫をします。

また、心理的な距離を保つことも重要で、業務上必要な会話以外は避け、プライベートな話には踏み込まないようにします。関わりを最小限にすることで、相手の不機嫌な態度に触れる機会を減らし、精神的な平穏を保つことにつながります。
もし言動がエスカレートし危険を感じる場合は、社内の窓口ひいては社外の窓口への通報も検討すべきです。職場のハラスメントに関連する相談機関は厚生労働省も紹介しておりますのでこちらをご確認ください。
参考:厚生労働省「相談窓口のご案内」


自分の落ち度ではないことで謝罪しない

相手の不機嫌な空気を和らげようとして、自分に非がないにもかかわらず安易に謝ってしまうのは避けるべきです。こちらに関してはフキハラを行っている相手が怖いと感じてしまい、難しい場合もありますのであくまでも一例とお考え下さい。
一度謝罪すると、相手は「自分の態度は正しかった」「相手が悪いから謝ってきた」と誤解し、フキハラ行為を正当化してしまう可能性があります

理不尽な態度や要求に対しては、なぜ相手が不機嫌なのかを冷静に問いかけたり、事実関係を確認したりするなど、毅然とした姿勢で臨むことが求められます。
状況が改善せず、業務に支障が出る場合は、労基などの外部機関に相談することも一つの選択肢です。


信頼できる上司や相談窓口に伝える

フキハラの問題を一人で抱え込むのは非常に危険です。
精神的に追い詰められる前に、信頼できる別の上司や同僚、人事部、または社内に設置されているハラスメント相談窓口に相談してください。

相談する際は、感情的に訴えるのではなく、「いつ、どこで、誰に、何をされたか、どう感じたか」を具体的に記録したメモやできる場合であれば動画・録音データなどを持参すると、状況が伝わりやすくなります。
客観的な事実に基づいて相談することで、会社として正式な対応を検討してもらえる可能性が高まります。

企業が取り組むべきフキハラへの組織的な対策

不機嫌ハラスメントは、行為者個人の資質の問題として片付けるべきではなく、企業が組織全体で取り組むべき重要な課題です。
フキハラなどのハラスメントを放置する・軽んじることは、職場環境の悪化を招き、生産性の低下や人材の流出といった経営リスクに直結します。

従業員が安心して働ける環境を整備し、ハラスメントを未然に防ぐためには、会社としての明確な方針を示し、具体的な対策を講じて職場環境を改善していく必要があります


ハラスメント研修を実施し従業員の意識を高める

フキハラを含むあらゆるハラスメントの防止には、まず従業員一人ひとりの意識改革が不可欠です。管理職から一般社員まで、全従業員を対象としたハラスメント研修を定期的に実施することが有効です。

研修では、どのような言動がフキハラに該当するのか具体例を交えて説明し、それが被害者や周囲、ひいては組織全体に与える悪影響について理解を深めます。
これにより、無自覚な加害者を減らすとともに、ハラスメントを許さないという組織全体の共通認識を醸成します。もちろん、研修をしたからと言ってハラスメントはなくなることはありません。ハラスメントを行う加害者は研修をしたうえで「自分は大丈夫」と思う傾向があります。そのため研修をしたから大丈夫と思ってしまうのは極めて危険です


社内に相談窓口を設置して早期発見に努める

従業員がハラスメント被害を一人で抱え込まずに済むよう、安心して相談できる窓口の設置は企業の義務です。
人事部やコンプライアンス部門などが担当する社内窓口のほか、外部の専門機関に委託する方法もあります。

相談者のプライバシーは厳守され、相談したことによって不利益な扱いを受けないことを明確に周知することが重要です。
例えば、ビジネスチャット「WowTalk」が提供する匿名相談機能のような仕組みを導入すれば、被害者がより声を上げやすくなります。
また、「ジョブカン労務HR」などのツールを活用した定期的なストレスチェックは、職場環境の問題を早期に発見し、高ストレス者へのケアを行う上で効果的です。


行為者本人に事実確認と改善指導を行う

相談窓口にハラスメントの報告があった場合、会社は迅速に対応しなければなりません。
まずは相談者のプライバシー保護を徹底しつつ、行為者とされる人物や周囲の従業員から慎重に事実確認を進めます。ハラスメントの事実が確認された場合、行為者本人に対し、その言動がハラスメントに該当し、就業規則違反であることを明確に伝えます

その上で厳重に注意し、具体的な改善指導を行います。加害者に自覚がないケースも多いため、専門家によるカウンセリングを勧め、行動変容を促すことも検討し、加害者の人事配置なども検討しましょう。


必要に応じて配置転換や懲戒処分を検討する

再三の注意や指導にもかかわらず行為が改まらない場合や、行為の悪質性が高い場合には、より踏み込んだ対応が必要です。
被害者の安全と精神的な平穏を確保するため、行為者を別の部署へ配置転換するなどの措置を検討します。

また、ハラスメントに関する規定を就業規則に明記し、その内容に沿って、けん責、減給、出勤停止、そして最も重い場合には懲戒解雇といった厳正な処分を下すことも必要となります。会社としてハラスメントに厳しく対処する姿勢を示すことは、再発防止にもつながります

まとめ

不機嫌ハラスメント(フキハラ)は、モラハラの一種であり、個人の感情の問題として軽視してはならない、職場全体に深刻な悪影響を及ぼすハラスメント行為です。被害を受けた場合は一人で抱え込まず、信頼できる窓口に相談し、自分自身の心身を守る行動を取ることが求められます。

また、企業はハラスメントを許さないという明確な方針を示し、研修の実施や相談体制の整備、問題発生時の厳正な対処といった組織的な対策を講じる責務があります。健全で生産性の高い職場環境を構築するためには、従業員と企業双方が問題意識を共有し、協力して取り組む姿勢が不可欠です

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