近年、台風の大型化や発生頻度の増加により、企業活動への影響が深刻化しています。
事業へのダメージを最小限に食い止め、何よりも従業員の安全を確保するためには、事前の備えが欠かせません。
この記事では、企業が平時から台風の接近時、そして通過後に取るべき具体的な台風対策と対応を、段階ごとに網羅的に解説します。
なぜ今、企業に台風対策が求められるのか
気候変動の影響で台風は年々激甚化し、その進路も広域化する傾向にあります。過去の経験則だけでは対応しきれない、想定を超える規模の災害が発生する可能性も高まっています。
事業と従業員の生命・安全を守るための具体的な台風対策は、もはや一部の企業だけでなく、すべての組織にとって喫緊の課題です。これは社会的責任を果たすという観点からも、極めて重要な取り組みといえます。
台風が企業活動にもたらす具体的なリスク
台風がもたらすリスクは、事業所の物理的な被害だけではありません。従業員の安全、サプライチェーン（供給網）、さらには企業の社会的信用に至るまで、その影響は多岐にわたります。
これらのリスクを具体的に把握し、それぞれに対する備えを講じることが、事業継続を左右する重要な鍵となります。
従業員の出退勤時に発生する事故のリスク
台風が接近または通過している状況での出退勤は、極めて危険です。強風による飛来物での負傷や転倒、冠水した道路でのスリップ、増水した河川への転落など、命に関わる事故に発展する可能性があります。
また、公共交通機関の麻痺により帰宅困難者が発生し、従業員が長時間オフィスに留まらざるを得ない状況も考えられます。
企業には従業員に対する安全配慮義務があり、万が一出退勤時に事故が起きれば、その責任を問われることにもなりかねません。
従業員の安全への影響を軽視することは、決して許されません。
事業所の建物や設備が破損する物理的リスク
台風がもたらす強風や豪雨は、事業所の建物や設備に直接的な損害を与える可能性があります。窓ガラスの破損や屋根の損傷、看板の落下といった被害は、事業の即時中断を招きます。
特に、河川の氾濫や内水氾濫による浸水被害は、オフィス内のIT機器や生産設備、在庫商品、重要書類などに壊滅的な影響を及ぼす恐れがあります。
これらの復旧には莫大な費用と時間がかかり、その間の事業活動は完全に停止してしまいます。物理的な被害は、企業の経営基盤そのものを揺るがしかねない重大なリスクです。
サプライチェーンの寸断による事業停止リスク
自社が直接的な被害を免れたとしても、取引先の工場が被災したり、道路や港湾などの物流網が寸断されたりすることで、サプライチェーン（部品調達から製造、販売までの一連の流れ）が停止するリスクがあります。
原材料や部品の供給が途絶えれば生産はできず、製品を顧客に届けられなければ売上は立ちません。
特定の取引先への依存度が高い場合や、代替の調達ルートを確保していない場合、その影響はより深刻になります。
サプライチェーンの寸断は、広範囲にわたる事業活動の停滞を引き起こし、機会損失や顧客からの信用失墜を招く要因となります。
従業員の安全を守れなかった場合の法的リスク
企業は労働契約法に基づき、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。台風の接近が明らかな状況で無理な出社を強いたり、危険な状況下での退勤を指示したりした結果、従業員が事故に巻き込まれた場合、企業は義務違反を問われ、損害賠償責任を負う可能性があります。適切な避難指示を怠った場合も同様です。
このような事態は、金銭的な損失にとどまらず、企業の社会的信用の失墜や従業員のエンゲージメント低下、優秀な人材の流出といった深刻な影響をもたらします。
台風シーズン到来前に！企業が平時から準備すべきこと
台風による被害を最小限に抑えるためには、平時からの周到な準備が不可欠です。災害が発生してから慌てて対応するのではなく、事前に計画を立て、物理的な対策を講じ、必要な物資を確保しておくことが重要です。
ここでは、台風シーズンが本格化する前に企業が取り組むべき具体的な事前対策について解説します。
事業継続計画（BCP）を策定し社内で共有する
事業継続計画（BCP）とは、災害などの緊急事態において、中核事業を止めない、あるいは中断しても可能な限り短時間で復旧させるための方針や手順をまとめた計画です。
台風の被害を想定し、優先して継続・復旧すべき業務の特定、指揮命令系統の明確化、従業員の安否確認方法、代替オフィスの確保などを具体的に定めておきます。
策定した計画は、経営層だけでなく全従業員に共有し、定期的な訓練を通じて実効性を検証・改善していくことが求められます。いざという時に機能する計画にしておくことが重要です。
浸水や強風から社屋・設備を守るための対策を講じる
事業所の物理的な被害を防ぐための対策は、事業継続の基礎となります。
まずハザードマップで自社の立地が浸水想定区域に入っているかを確認し、リスクがある場合は土のうや止水板を準備します。
地下や1階にあるサーバーなどの重要設備は、可能な限り上層階へ移設することも検討すべきです。強風対策としては、窓ガラスへの飛散防止フィルムの貼付、シャッターの補強、屋外看板の固定などが有効です。
また、雨漏りや浸水を防ぐため、屋根や雨どい、排水溝の定期的な点検と清掃を平時から行っておくことが、被害の軽減につながります。
災害備蓄品（水・食料・電源など）を確保する
台風の影響で公共交通機関が停止し、従業員が帰宅困難になる事態に備え、最低3日分の備蓄品を準備しておくことが推奨されます。 具体的には、飲料水、長期保存が可能な食料（アルファ化米、缶詰など）、簡易トイレ、毛布、救急用品などです。
また、停電に備えた電源対策も欠かせません。
懐中電灯やラジオはもちろん、スマートフォンの充電にも利用できるモバイルバッテリーや、非常用発電機の確保も検討します。
これらの備蓄品は全従業員分を用意し、すぐに取り出せる場所に保管するとともに、定期的に消費期限を確認し入れ替える管理が必要です。
万が一の被害に備えて損害保険の内容を見直す
万が一、台風によって建物や設備が損害を受けた場合、その復旧には多額の費用が発生します。
この経済的負担を軽減するため、損害保険への加入は必須の対策です。現在加入している火災保険・災害保険が、風災や水災による損害を補償対象としているか、契約内容を再確認しましょう。特に水災補償はオプション契約の場合が多いため注意が必要です。
また、被災による休業期間中の利益減少や営業継続費用をカバーする「事業休業保険」への加入も有効な選択肢となります。
自社のリスクを正しく評価し、実情に合った適切な補償内容になっているか、定期的に見直しを行いましょう。
台風接近・通過時に企業が取るべき行動基準
台風の接近が予測された段階から、企業は従業員の安全確保を最優先に行動しなければなりません。
そのためには、出社や休業の判断基準を事前に明確化し、全従業員へ迅速に情報を伝達する仕組みを整えておくことが求められます。
ここでは、台風の接近・通過時の対応として、企業が具体的に取るべき行動基準について説明します。
出社・在宅勤務・休業の判断基準を明確にする
台風接近時における出社、在宅勤務、または休業の判断は、従業員の安全に直結するため極めて重要です。気象庁が発表する警報（暴風警報や大雨特別警報など）の発令状況、公共交通機関の運行見通し、自治体からの避難情報などを基に、具体的な判断基準をあらかじめ定めておきましょう。
例えば「午前7時の時点で、事業所所在地の市区町村に暴風警報が発令されている場合は、全従業員を原則自宅待機とする」といった客観的なルールが有効です。
この基準と、誰が判断し、いつ、どう伝えるかという指揮系統を全社で共有しておくことで、混乱を防ぎ、適切な時の対応が可能となります。
従業員への指示や情報を迅速に伝達する手段を確立する
出社や休業に関する決定は、対象となる全従業員へ迅速かつ確実に伝えなければなりません。
普段の業務で使うメールやチャットツールに加え、緊急時専用の連絡手段を確保しておくことが望ましいです。
安否確認システムや一斉メール配信サービスなどを活用すれば、個々の従業員の開封状況も確認でき、より確実な情報伝達が実現します。
一つの通信網が機能不全に陥る可能性も考慮し、複数の伝達手段を準備しておくことが重要です。
情報伝達の遅れが従業員を危険に晒すことのないよう、確実な時の対応ができる体制を整えておきましょう。
公共交通機関の計画運休に合わせた対応を決めておく
近年、鉄道会社は利用者の安全確保のため、台風の接近が予測されると早い段階で「計画運休」を発表するようになりました。企業はこの計画運休の情報を重要な判断材料とすべきです。
運休予測が発表された時点で、従業員の早退を指示したり、在宅勤務へ切り替えさせたりするなどの対応を事前にルール化しておきます。
運休が始まってから指示を出したのでは、従業員が駅で足止めされるなど帰宅困難な状況に陥る可能性があります。従業員が利用する交通機関の情報を常に注視し、計画運休発表時の対応をあらかじめ決めておくことで、混乱なく安全な対応を実現できます。
従業員の安全と事業継続を両立させるための体制づくり
従業員の安全確保は企業の最優先課題である一方、事業を継続させることも社会的な使命です。
この二つを両立させるためには、平時から緊急時に柔軟に対応できる体制を構築しておく必要があります。
テレワーク環境の整備や安否確認システムの導入といった具体的な対策を通じて、災害に強い組織づくりを進めることが求められます。
緊急時に柔軟な働き方を実現するテレワーク環境を整備する
台風によって出社が困難な状況でも事業を継続するための有効な対策が、テレワーク環境の整備です。従業員が自宅からでも安全に業務を遂行できるよう、ノートPCや通信回線を準備し、社内システムにアクセスできる環境を構築します。
Web会議システムの Zoom（ズーム）やビジネスチャットの LINE WORKS（ラインワークス）を導入すれば、離れた場所でも円滑なコミュニケーションが可能です。また、 Splashtop（スプラッシュトップ）のようなリモートデスクトップサービスを利用すれば、自宅のPCから会社のPCを安全に操作でき、オフィスとほぼ変わらない環境で作業を進められます。
こうした対策を平時から進め、運用に慣れておくことが重要です。
全従業員の安否を迅速に把握できるシステムを導入する
災害発生時に企業が最優先で実施すべき対応は、従業員とその家族の安否確認です。
しかし、電話やメールで一人ひとりに連絡する方法では時間がかかり、通信が輻輳する災害時には機能しづらいのが実情です。
そこで有効なのが、安否確認システムの導入です。
このシステムは、災害発生時に安否状況の報告依頼を従業員へ自動で一斉配信し、回答結果を自動集計します。
従業員は簡単な操作で自身の状況を報告でき、管理者は全従業員の安否を迅速に一覧で把握することが可能です。
これにより、被災した従業員への支援や、事業復旧に必要な人員の確保といった次の対応へスムーズに移行できます。
台風時の休業や自宅待機に関する給与ルールを就業規則で定める
台風の接近に伴い、会社の指示で従業員を休業させたり自宅待機させたりした場合の給与の扱いについて、あらかじめ就業規則で明確に定めておく必要があります。
労働基準法では、会社の都合による休業の場合、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務があります。会社の安全配慮に基づく休業指示も、この「会社都合」と解釈される可能性が高いです。労使間の無用なトラブルを避けるためにも、どのような場合に休業手当を支払うのか、あるいは特別休暇として扱うのかといったルールを、就業規則などのマニュアルに明記しておくべきです。明確な規定は、従業員の安心にもつながります。
まとめ
台風による企業活動への影響は年々深刻さを増しており、事業継続と従業員の安全確保を両立させるための台風対策は、すべての企業にとって重要な経営課題です。
平時には事業継続計画（BCP）を策定し、社屋の物理的な防護や備蓄品の確保といった基礎的な備えを進めます。
台風接近時には、明確な基準に基づき出社や休業の判断を迅速に行い、従業員へ確実に情報を伝達する体制が不可欠です。
テレワーク環境や安否確認システムといった仕組みは、緊急時における柔軟な対応を可能にし、事業への影響を最小限に抑えます。これらの多角的な台風対策を計画的に実施し、継続的に見直していくことが、企業の持続可能性を高めます。
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