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2024年4月1日から労働条件明示に関するルール(労働条件の明示義務)が改正されました。
そこで、その基本的な内容と、2024年4月に改正・追加された4つのルールを解説します。
労働条件の明示義務は全ての従業員が対象になります。労働基準法15条で定められており、違反すると罰則を科されるので気をつけましょう。
労働条件の明示義務とは
労働条件の明示義務とは、使用者(企業)が全ての従業員に向けて賃金や勤務時間を知らせなければならないという義務です。正社員だけでなく、派遣社員・契約社員・アルバイトなど全ての従業員が対象になります。労働基準法第15条で定められており、違反すると指導・是正勧告を受けるほか、罰金を科されることもあります。
企業は労働者に対して書面での明示義務があります。賃金・勤務時間などが口約束のみになってしまうと、認識のズレなどによってトラブルにつながる可能性があるためです。すなわち、雇用する企業の立場が強いことから、従業員にとって不利な条件での勤務を余儀なくされる可能性があります。
明示手段としての書面は幅広く、実はメールやファックス・LINEなどのSNSでの明示も可能です。ただし、書面以外の方法には条件があります。労働者からの希望があった場合のみ、書面に出力できる状態での明示をすることです。厚生労働省は、労働者自身が印刷・保管しやすいようにPDFなどのデータ送付を推奨しています。
参照元: 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります|厚生労働省
7つの絶対的明示事項
雇用契約にあたっては、企業が従業員に必ず明示するべき7項目の絶対的明示事項があります。
雇用契約の絶対的明示事項
- 契約期間に関する事項
- 契約期間がある場合の更新に関する事項
- 就業する場所と業務内容に関する事項
- 労働時間と休日に関する事項
- 賃金に関する事項
- 解雇を含む、退職に関する事項
- 昇給に関する事項
「7.昇給に関する事項」を除く6項目には、書面での明示義務があります。
上記内容に加えて、パート・アルバイトなど短時間契約者や有期労働契約者には「退職手当、賞与の有無に関する事項」や「雇用管理の改善などの相談窓口に関する事項」を明示しなければなりません。
参照元:パートタイム・有期雇用労働法 の概要 ー 厚生労働省
ここにあげた既存の明示事項に、「2024年4月から改正・追加された労働条件明示ルールの内容と注意点」にある内容が追加されます。
8つの相対的記載事項
相対的明示事項とは、企業で下記の8項目に該当する制度がある場合に明示する内容です。
雇用契約の相対的記載事項
- 退職手当に関する事項
- 賞与に関する事項
- 食費や作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
- 休職に関する事項
2024年4月から改正・追加された4つの労働条件明示ルールの内容と注意点
既存の労働条件の明示義務に対し、2024年4月1日に追加・変更された内容は下記の通りです。
2024年4月から改正・追加された項目
- 就業場所・業務の「変更の範囲」(全ての労働者が対象)
- 更新上限(有期契約労働者が対象)
- 無期転換申込機会(有期契約労働者が対象)
- 無期転換後の労働条件(有期契約労働者が対象)
ここからはこれらの項目についてひとつずつ説明させていただきます。
1. 就業場所・業務の「変更の範囲」
就業場所や業務内容の変更の範囲の書面明示は、労働契約締結または有期労働契約の契約更新のタイミングごとに行います。2024年4月1日以降から契約を締結・更新する全ての労働者が対象です。トラブルを防ぐため、制度改正より前から労働契約している労働者についても、変更の範囲を明示しておきましょう。
明示する内容は、労働契約期間中に変更が起こりうる全ての「就業場所と業務」です。労働者が通常就業する就業場所・業務内容だけでなく、配置転換・在籍型出向を命じられた場合の配置転換先・在籍型出向先の場所と業務も含まれます。
一時的な他部門への応援・出張や研修による就業場所は含まれません。また、就業場所・業務を変更する予定がない場合は、その旨を「変更の範囲」に明示しましょう。
テレワークを例にすると、雇入れ直後からテレワークを行う場合は「雇入れ直後」の就業場所として労働者の自宅などを明示します。また、将来的にテレワークを行う可能性がある場合は「変更の範囲」として明示します。
就業場所・業務の「変更の範囲」を明示することで、従業員にはキャリア形成やワークライフバランスを描きやすくなるメリットがあります。企業は就業場所などの変更を事前に明示することで、トラブルや従業員の離職などを防げます。
2.更新上限
有期労働契約を締結するとき・契約を更新するタイミングごとに、通算契約期間・更新回数の上限(更新上限)の有無などの明示が義務づけられます。また、更新上限を新設・短縮する場合は理由も示す必要があります。
例えば「契約期間は3年、契約更新は5回まで」といった条件を「契約更新は3回まで」に変更する場合、その理由を明示する義務が生じます。更新上限を明示することで、労働条件に関するトラブルを防げます。
3.無期転換申込機会
無期転換とは、有期契約労働者が同じ企業で5年を超えて働いた場合、労働者が希望すれば契約期間のない労働契約(無期契約)に転換されるルールです。5年のルールと10年の特例措置があり、労働者が希望した場合、企業にはその申し出を受ける義務があります。
2024年4月の改正によって、無期転換申込権が発生する有期労働契約の契約更新のタイミングごとに、無期転換申込機会の明示が義務づけられました。
有期労働契約者のなかには、無期転換申込権を知らずに申し込みの機会を逃している労働者もいます。企業が労働者に対して無期転換の申込権があること・権利発生のタイミングを明示して、従業員が主体的に無期転換申込権について判断する機会を得ることで、事前にトラブルを防げます。
4.無期転換後の労働条件
「無期転換申込権が発生している」と伝えられても、転換後の給与などの労働条件がわからなければ判断できません。そこで、無期転換した場合の労働条件を明示する義務が追加されました。
具体的には、無期転換の申込権が発生するタイミングで労働時間・業務内容・給与などの条件の変更内容を明示するという運用です。無期転換後の働き方・待遇を把握した上で、労働者が権利を行使する判断を行えるように努めましょう。
無期転換後の労働条件は「バランスを考慮した事項」を踏まえ、正社員や無期雇用フルタイム労働者との待遇に不合理な差が生まれないように決定します。厚生労働省が例として挙げる「バランスを考慮した事項」には業務内容・責任の程度・異動の有無・範囲などがあります。
労働条件明示義務違反をするとどうなる?
企業が労働者に対して労働条件を明示しない場合、労働条件明示義務違反として30万円以下の罰金が科されます(労基法第120条1号・第15条第1項)。
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
なお、企業が労働条件明示義務に違反して労働条件を明示しなかったとしても、労働契約そのものは有効に成立すると考えられています。
ただし、明示した労働条件と実際の条件が異なっていた場合、労働者は労働契約を解除できます。もしも、労働者が就業のために引越していた場合は、帰郷にかかる旅費を企業が負担しなければいけない可能性があります。旅費負担は契約を解除した日から14日以内に帰郷する場合に限ります(労基法第15条第3項)。
また、給与や勤務時間などに誤記載があった場合も、労働者は労働契約を解除できます。故意ではないとしても、うっかりミスで済まされることではありません。「明示された労働条件と異なっていた」という事実のみで判断されるため、労働条件を明示する際には誤記載の有無・解釈の不一致が生じかねない記載がないか確認しましょう。
まとめ: 労働条件明示義務に適切な対応を!
2024年4月には労働条件明示義務に関し、4つの改正・追加がありました。
労働条件通知書は、厚生労働省のホームページにフォーマットが掲載されています。
紙ベースでやり取りを行う場合は東京労働局「様式集 」 にて必要な様式をダウンロードしてご使用ください。
しかし、紙ベースでのやり取りは時間がかかる上、個人情報を記載した雇用契約書を紛失するリスクもあります。そこで、おすすめなのがクラウドサービスの利用です。
ビズらくでもお取り扱いのある労務管理サービスのジョブカン労務HR や SmartHR を利用すれば、労働契約のやり取りにかかる時間を短縮し、さらに個人情報紛失のリスクも軽減できます。クラウドサービスなので今回の労働条件明示ルール変更なども自動で対応できます!企業と労働者にかかる作業工数・リスクを最小限に抑え、セキュリティ対策も安心のクラウドサービスを利用してみましょう。